Ⅱ 「オブジェクト指向哲学と三項構造――『四方対象』に見るハーマン」
La relation tripolaire dans la philosophie “orientée vers l'objet”.
清水高志(東洋大学)
グレアム・ハーマンのオブジェクト指向存在論(Object Oriented Ontology、OOO)は、これまでに存在した哲学のさまざまな立場に対して、それらが「対象(Object)そのものから出発していない」という批判を行ったことによって知られている。従来の哲学者たちは対象を、それを含む外的で、より大きな関係・文脈のうちに還元してしまうか(上方解体overmine)、対象を構成する諸要素の側に還元してしまうか(下方解体undermine)のどちらか(あるいは、下方解体のあと上方解体する、といった手順を採ることもある)であったというのである。こうした二種類の手法を忌避し、いずれの還元主義にも陥らない「中間的な統一体」としての対象から出発しようとするところに、ハーマンの立脚点がある。
とはいえ、この二種類の還元主義のうち、下方解体の意味するところを読み取ることはいくぶん難しい。対象が下方解体されるというとき、対象から見たその構成的諸要素は、《下方における関係》である。ハーマンの語る対象は、実際には上方もしくは下方における何等かの関係から「切り離される」ことはあり得ず、ただ「どちらにも還元されない」だけなのだ。そしてそうした状況を考察するために、彼は対象と対象の関係のレイヤーを重層させ、その中間において「持ちこたえている」(withstand)ものとしての対象のあり方を定位しようとする。この構造は、もっとも単純化すると三項からなる重層関係を描くが、その操作のうちでハーマンは真に「脱去」(withdrawal)した対象(実在的対象)とその実在的性質、たんに外的な対象同士の二項関係(感覚的対象としての現れと、その感覚的性質)という、根本的な区別を導きだす。
本発表ではまた、ハーマンのハイデガー解釈についても論究し、英米圏に多く見られるハイデガーの道具分析のプラグマティズム的(デューイ的)解釈に対して、彼の立場がどのように異なっているのかも明らかにする。そしてそこにおいて、対象と対象がおたがいに「脱去」(withdrawal)してあること、また「持ちこたえている」(withstand)ということの意味を問い直す。そして対象と対象の関与と脱去のうちに、「知覚」という主題系を持ち込むハーマンの意図がいかなるものであるのかについても、仔細に解明するものとする。