13:20-16:20 【シンポジウム】 「人新世」
「人新世とシェリング自然哲学の復権」
Anthropozän und Rehabilitation der Naturphilosophie Schellings
中島 新(ボン大学)

新たな地質年代として提唱された「人新世」概念が、自然科学における議論の枠を超えて様々な学問領域で盛んに論じられている。その影響は思想分野にも及び、とりわけ現代思想の実在論的動向と結びつき、独自の展開を見せている。「人新世」がここまで注目を集める理由は様々であるが、ひとつには、それが地球規模での気候変動などに対するある種の警鐘として理解され、人間と自然、そして両者の関係の再考を迫っていることが挙げられる。しかもその警鐘は、われわれ自身がすでに「当事者」として危機に直面しており、早急に対応せねばならないことを知らせている。
 しかしながら、人間と自然との関係をめぐる問題は哲学的なテーマとしてこれまで繰り返し論じられてきたものでもあり、とりわけシェリングは「自然哲学」の展開を通じて同様の問題に取り組んでいた。「人新世」の議論に親和的な現代思想、例えばT・モートンによる環境哲学や(一部を除いた)「思弁的実在論」において、シェリングの思想が積極的に論じられることはほとんど無い。しかしここ数年の間に、「人新世」をシェリング自然哲学の観点から論じる試みがシェリング研究内部からではじめ、一つの研究動向として確立されつつある。
 シェリング研究における「人新世」の受容は英語圏でのシェリング自然哲学研究が中心となっており、この状況は2000年代初頭に始まった後期シェリングとシェリング自然哲学の再評価という研究動向と合流することで成立したと見ることができる。その再評価において中心的な役割を果たしたのが(思弁的実在論のメンバーでもある)I・H・グラントであり、「人新世」の受容にはその「グラント以降」の世代が取り組んでいる。グラントによるシェリング自然哲学読解の特徴のひとつは、シェリングの「物質」概念を後期思想における「積極哲学」との関係から再評価する点にあり、グラント以降の世代にもその傾向は引き継がれている。それゆえ本報告では、「人新世」とシェリング自然哲学の接点が「物質」概念にあることを明らかにし、またグラント以降の世代による「人新世」の受容に際して、そうした「物質」概念の再評価がどのように作用しているのかを考察する。そして最後に、以上の分析を踏まえて、「人新世」という具体的なテーマとそれを取り巻く議論状況に対してシェリング自然哲学がどのように応答しうるのか、その展開可能性がどこにあるのかを探る。