7月7日(日) 10:10-10:50 【一般研究発表Ⅴ】
フィヒテとノヴァーリスにおける生/哲学/芸術の連関をめぐって Geistの概念を軸として
Über den Zusammenhang des Lebens, der Philosophie und der Kunst bei Fichte und Novalis
Reflexionen über den Begriff des Geistes
平井 涼(東京大学)

 本発表では、「哲学」と「芸術」というそれぞれの営みを考えるにあたって、自我における「生」がこれら両者とどのように関わるのか、という問題を、フィヒテとノヴァーリスの思考に即して明らかにすることを目指したい。こうした三者の連関において、Geistという概念が重要な役割を果たしていることに着目しつつ、われわれは当該の概念を導きの糸としながら論究を進めてゆくことにする。
 まず、フィヒテにおいて、生と哲学の連関が明確に提示されている、『哲学におけるGeistと文字の差異について』を検討することにより、こうした連関に解明の糸口を与えたうえで、『全知識学の基礎』において、そうした問題意識がどのように展開されているか、を論ずる。更に、フィヒテにおいては珍しく、美学的な問題を論じた著作である、『哲学におけるGeistと文字について』という一連の書簡体の論文を取り扱うことにより、生、哲学、芸術の三者のあいだに成り立つ連関を総合的に把握することを目指したい。その過程で、単なる自然的な生を、自己の自由に基づいた理性的な生へと媒介するものとして、Geistという概念が重要な役割を担いつつ浮上することになる。
 そのうえで、ノヴァーリスにおいて、生と哲学の連関が前景化しはじめる、九七/八年の断章群を検討することにしたい。その検討の過程で、九五/六年の『フィヒテ研究』での思考の成果がどのように引き継がれ、また、新たな段階へと一歩を進めているか、を明らかにしつつ、最終的に芸術の問題へと進んでゆきたい。ここにおいても、Geistという概念は決定的な役割を果たしている。自我と自然のあいだを媒介しつつ、それらを自己の構成契機としながら、自己を変容し、系列化し、有機的に展開するGeistによって、自我はその自然的な生を超えて、自己の自由へと導かれるのである。
 以上の考察に基づきながら、フィヒテとノヴァーリスのそれぞれの思考に即して、さまざまな一致点を見出すと同時に、その相違点をも浮彫にし、更には、こうした一致と相違を手掛かりに、両者の関係をも再構成することにより、本発表を締め括ることにしたい。