Ⅰ ドイツ観念論と思弁的実在論 : シェリング再評価の文脈
German idealism and speculative realism: In what context is Schelling reevaluated?
浅沼 光樹(京都大学・哲学)

 今世紀に入ってからの最初の大規模な思想動向は《実在論への転回》であると言われている。この動向は互いに異質な思想的ルーツをもつ複数の諸派から成り、その意味では単一の思想動向というよりは、むしろ複数の思想動向のゆるやかな束と言ったほうがよい。しかしそのような中にあってこのムーブメント全体のシンボル的存在であり、その中心の一つと見なされているのが《思弁的実在論》と呼ばれる一派である。
 2007年にロンドンのゴールドスミスカレッジで開催されたワークショップが《思弁的実在論》の生誕の地であり、そこで登壇した四人―レイ・ブラシエ、イアン・ハミルトン・グラント、カンタン・メイヤスー、グレアム・ハーマン―がオリジナル・メンバーとされている。《思弁的実在論》はポスト構造主義以後の新思潮として大いに注目を集め、2010年前後を中心に主としてインターネット上で激しい議論の的となった。今誕生から十年が過ぎ、一時の熱狂は収まったように見えるが、その間に彼らの基本理念は広く一般に浸透し、既に現代思想を語る上で欠くことのできない参照点となりつつある。
 ここで注目したいのは、《思弁的実在論》のオリジナル・メンバーの中にイアン・ハミルトン・グラントというシェリング研究者が含まれていることである。しかもその『シェリング以後の自然哲学』においてグラントは、彼によって再解釈されたシェリングの自然哲学をほとんどそのままの形で自己の思想的立場としている。ある人の言葉を借りるならば、シェリングは「その名前が発明される以前の思弁的実在論者」と見なされているのである。
 それでは、このような最新の思想動向とシェリングとはどのような仕方で互いに結びついているのであろうか。より一般的に言えば、思弁的実在論の基本的な問題意識がドイツ観念論の再評価にどのようにしてつながるというのであろうか。
 本発表は、思弁的実在論という最新の思想動向の一つをとりあげ、それがどのような意味においてシェリングの再評価の文脈を用意するのかを、オリジナル・メンバーであるメイヤスーの『有限性の後で』とグラントの『シェリング以後の自然哲学』の関係性に留意しながら、明らかにしてみたい。